起業、そしてトヨタコネクティッドとの出会い。
25年に及ぶデザイナーキャリア

── トヨタコネクティッドに入社するまでのキャリアを教えてください。
出身である名古屋の美術科がある高校に通い、グラフィックデザインを学びながら、デザイナーである母が経営する会社をアルバイトで手伝っていました。
大学受験をする高校3年生になった頃、母からフランス留学を勧められて、卒業後はフランスへ向かいました。当時は雑誌・書籍のデザインに興味があり、フランスでもエディトリアルデザインが評判の大学に入学しましたが、中退して現地で会社の立ち上げを行っていました。
ちょうどその頃はコンピュータを使ったエディトリアルデザインが当たり前になっていく過渡期。またWebも1995年あたりから徐々に業界ができ始めた頃だったので、社会の人々の興味がコンピュータへと集中していきました。私はこの移り変わりを眺め、そこに魅力を感じて踏み込んでみたら、非常に面白くて。最初は仕事の中で少しやってみる程度でしたが、いつの間にか気付いたらそれが仕事の全てに。
以来25年間デジタルデザイナーとしてのキャリアを歩んできたわけですが、トヨタコネクティッドに入社する直前は、印刷業界向けのSaaSビジネスを起業して経営もしていました。
以前レクサスのウェブサイトのアートディレクターを務めていたことがきっかけで、起業した会社の経営を退任した際、現取締役から声をかけられ、トヨタコネクティッドに入社することになりました。
モビリティの根源的なニーズを探求し、次世代の顧客体験をつくる。
── トヨタコネクティッドへの入社を決意したきっかけは?
トヨタコネクティッドでのモビリティサービスの立ち上げやMaaSの取り組みなどの構想を取締役から聞いたことがきっかけです。
クルマが通信機を備えるようになったのはここ10年から20年の変化ですが、トヨタコネクティッドは2000年に、トヨタのお客様との接点拡大を目指すIT事業会社として始まりました。 販売の現場改善やデジタルマーケティング、そしてオペレーターサービスというコネクティッドセンターを通してトヨタ車を運転する顧客を支援するサービスなど、次世代につながるクルマづくりに寄与してきた背景があります。
そして現在、自動運転が一般化する世界がもうすぐそこに。自動運転は車両単体だけではなく、クラウドでの集中的なデータ処理や街のインフラを使うことで成立が可能になります。コネクティッドの技術がより一層求められる時代になりました。
そんなトヨタコネクティッドで特命推進G(グループ)を立ち上げてリーダーを務めないかと話をいただき、ポテンシャルを感じて入社を決意しました。

1人から17人のチームへ。UX/UIチームが
1人1プロジェクトにこだわる理由

── 長沼さんが入社した当初から現在まで部署の変化は?
私が入社した時は部署に一人、組織としても形になっていない状況だったので、新しい事業にいきなり飛び込んだ形でスタートしました。右も左もわからない中で転がっている玉を拾っていくように仕事をしていましたね。
それが現在は17人ものメンバーが在籍しています。トヨタコネクティッドの本社は名古屋ですが、私のグループは全員今年にオープンしたばかりの東京のオフィスで仕事をしていて、そこにUX/UIチームも含まれています。
モビリティの根源的なニーズを探求し、次世代の顧客体験をつくる。
── UX/UIチームはどのようなチームですか?
今は厳密に組織構造として線引きされているわけではなくて、グループ内でUX/UIデザインに関わるお仕事をするメンバーを我々が総称して「UX/UIチーム」と呼んで活動しています。
チームにはデザイナーやリサーチャー、そして開発者など、様々な職種のメンバーが集まっていて、常に走っている様々なプロジェクトに対してデザイナーをアサイン。1人1プロジェクト制にして、複数兼務を極力避けるよう工夫しています。
なぜならトヨタは何よりもプロジェクトの規模が大きいのが特徴。我々が今取り組んでいるプロジェクトも今後アメリカのチームと合流したり機能が拡大したり、開発できる組織にしていくとなると数百人規模へと発展していきます。こうした環境の中でUX/UIチームのメンバーは領域の境界線を引きにくい分、様々なところに声をかけてもらいあらゆる会議に参加させてもらう機会がたくさんあります。最近は横の繋がりを重視した開発プロセスがトレンドでもあるので、アサインされたらプロジェクトにどっぷり入ってもらい、チームの一員として働くことを実現する。こうして確実に知見を得て、専門性の高いメンバーが揃うチームになるために吸収してもらいたい。そんな想いから兼務は行わないようにしています。
── 特命推進Gの具体的な業務は?
特命推進Gが立ち上がって最初に取り組んだのは、サービスの運営やシステム開発でもデザインをするわけでもなく、どうやってモビリティを成立させていくかという問いに対して交通事業者さんと検討することでした。
その後、システム開発が始まってスマホのアプリやWeb上での車両管理、モニタリングをする「Out Car(クルマの外)」のことが中心に。
そして今では「In Car(クルマの中)」の体験をどのように作るのかという、体験設計やサービスデザインの取り組みも多くなってきました。具体的にはカーナビやメーターなど車内のディスプレイを伴う端末の領域もUX/UIデザインの範囲として仕事させてもらうように変わってきました。
運用から開発、UXへと、まるでデザインプロセスを逆流するかのように我々が担当する領域が広がってきているのを感じています。
モビリティの根源的なニーズを探求し、次世代の顧客体験をつくる。

業界の最先端を担うからこそ、
「まずやってみる」を楽しむ

── どんなバックグランドを持つメンバーがいますか?
20代から50代まで、幅広い年齢層が在籍しています。例えば、国内の有名なデザインアワードの審査員を歴任しているシニアなメンバーから、デザインセンスがあって手を動かすのが早く、ユーザーテストを高速で回すことが得意な若手のメンバーまで揃っていますね。
また日本で勉強して仕事をされている人が多いですが、私のように海外在住経験や留学経験がある人も徐々に増えてきていると思います。海外拠点とのミーティングなど日常的に英語でのコミュニケーションをする必要もあります。
── チームの雰囲気やカルチャーは?
みんなクルマをデザインすることは初めてなので、年齢やキャリアに関係なくフラットに上下関係なく仕事できるのはチームの魅力の一つだと思います。
またUX/UIチームが働く東京のオフィスはとてもオープンな空間で、業務委託の方も含めて一緒に仕事をしている仲間を巻き込むことができる環境があります。トヨタコネクティッドの社員のみならず外部の方にも拠点と思ってもらえる空気が作れているメリットは大きいと思います。
大企業でこのような職場環境を持つのは珍しいかもしれませんが、せっかくなのでデザインやシステム開発をするクリエイティブな人たちが仕事をしやすいとか正しいと思えることを日々試してみて、良ければ定着させていく。そんなアジャイルな発想で職場環境も私たちで日々デザインしていけるのが、このオフィスですね。
モビリティの根源的なニーズを探求し、次世代の顧客体験をつくる。
スタートアップとの取り組みも徐々に始まっていることもあり、今後さらにスタートアップのやり方から私たちが学ばせてもらうことがたくさん出てくるのかなと思っています。大企業が正しいやり方をしているとは限りません。
── 大きな組織ならではの苦労はありますか?
次世代のクルマに向けた取り組みは、日本やグローバルの自動車業界の中でも経験したことがある人が非常に少ない分野です。つまり良い意味では業界の最先端を担っていますが、実態としては誰も方法を知らないので、まずはやってみる。それでうまくいかなかったらまた違うやり方を模索して自分たちのやり方を作り上げる。一見無駄が多いとも思われることに日々取り組んでいます。それが苦労しているところでもありますし、私たちが楽しんでいるところでもありますね。

移動という根源的ニーズを満たすことに
惹かれる人と働きたい

── 組織で実現していきたい未来を教えてください。
作るものはプロセスの中から生まれてくるので、働き方や組織そのものをどのようにデザインしていけるかが大事だと思っています。そのため現場のメンバーが遠慮なく意見をぶつけ合えて互いがポジティブに選択肢を選んでいくことを繰り返し、それをチームで共有して皆の知見として育てていきたいですね。
またUXはプロダクトの形やスペック表ではわかりにくい価値。例えばどうしたらお客様にトヨタ車を選んでいただけるのか考えたいときには、社会に対して背負っているミッションをはっきりさせた上で達成できているかというのがUXの価値を判断する物差しの一つになると思います。私たちは多くのデータを活用可能な立場として、それをいかに提供価値としてお客様に還元できているかという目線も必要だと考えます。
人々が満足できる移動手段を見つけることは、トヨタ車だけではなくモビリティ社会全般にも役立てることができ、我々はそれを実現しやすいポジションにいるはずです。ソーシャルインパクトを与えることが私たちのモチベーションでもあるので、トヨタコネクティッドの事業は社会にとっていいことだと誰からも実感してもらえるような実績を上げていきたいですね。
そのためにもモビリティに興味を持っている方にご一緒してもらえたら、今後組織としてもサービスとしてもより一層成長していけるのではないかと思っています。
── 今後のチームの採用は?
UX/UIの領域は今後トヨタコネクティッドの主軸的なポジションになっていく予定で、おそらく数年後には100名近い規模の部署へと拡張していく、そんな成長段階にあります。
担当する領域も拡張してチームの規模も大きくなりますが、職種は細分化させずこれまで通り大きく3種を募集しています。まずはエスノグラフィーやユーザーインタビューに取り組むUXリサーチャー、そしてリサーチで得たインサイトをどうプロダクトに反映させていくのかインタラクションから具体的なUIまでデザインするUIデザイナー。最後に、デザインを理解した上でデザインと機能の両方をブリッジするかたちで実装するフロントエンドエンジニアですね。
── UX/UIチームで求める人材は?
専門性の高い人材を集めて、チームそして組織としての強みが出せる段階に早く到達したいですね。デザイナーとして順当なキャリアパスの方はもちろん、デザインを理解しながらも異なる分野での経験がある方、例えば製造業のことがわかるリサーチャーなどは貴重な人材だと考えています。
そしてやはり仕事内容や人、カルチャーに興味を持っていただくことが重要だと思うので、多少効率が悪いかもしれませんが採用の面談は一人一人にかける時間を長くして、丁寧に会社や事業のことをお伝えしながらメンバーとなる人材を探しています。

次世代の顧客体験をつくる。
マネージャー、そしてデザイナーとしての挑戦

── 長沼さんご自身の立場で挑戦していきたいことを教えてください
現在マネージャーとして、組織を管理する立場と作るものに意見する立場の両方を持たせてもらっていますが、自分が過去やってきたことや日々考察したことをチームに吸収してもらえるような仕事をして、究極的にはマネージャーが組織の中から不要とされるような組織をつくれたら良いと思っています。
また個人的には自分がやっている仕事が世の中で使われている様子を早く目にしたいですね。クルマの開発は5年ほどのスパンで動いているので、今やっていることが世の中に出るまでに数年かかります。しかし今はプロトタイピングを行って実際のユーザーに近いテストモニターの様子をすぐ近くで観察できるようになりました。今いるチームメンバーと今後入っていただく人たちと一緒にこうしたアクションを早く起こせればと思っています。
モビリティの根源的なニーズを探求し、次世代の顧客体験をつくる。
── デザイナーとして大切にしていきたいことは?
自分のプライドを刺激するためにも、仕事した結果があのクルマに反映されているんだと胸を張って言える仕事をすることはもちろん、今後世界を背負っていく人たちにとって良いことをしていきたいというのが一番大きいですね。
将来自分の子供が大人になって歳をとった時代でも、今自分がとった選択肢がデザインという形で反映されている次世代の顧客体験をつくることができるような仕事をしていきたいです。