調査レポート

遠く離れて住む⾼齢者家族を見守ることの難しさ

2021.07.09

過疎状態にある⾃治体は全国で47.6%(平成29.4現在)あるという(出典: 全国過疎地域促進連盟「過疎市町村の⼈⼝・⾯積」)。そういった過疎地域においては、⾼齢世帯の⽇常の移動や安否確認など、様々な課題が存在している。

また、運送業の担い⼿不⾜と⼈⼝減少に伴う輸送需要の減少により、⼈流・物流サービスの持続可能性の確保が深刻な課題(出典: 国⼟交通省「過疎地域における物流サービスの現状と課題」)となっている。トヨタコネクティッド 先行企画部デザインリサーチチームでは、こういった過疎地の課題に着⽬し、物流のラストワンマイルサービスの可能性や、⾼齢者の⾒守りの実態を探るため、過疎地に⾼齢者のみで暮らす親を持つ5名の⽅へのインタビュー調査を⾏った。


過疎地の⾼齢者にとって通信販売は救世主となるか?

⾞が⽣活の必需品となっている過疎地は多い。高齢者による自動車事故が問題される現在においても、⾼齢者⾃ら⾞を運転することが日常になっており、遠くに暮らす家族にとってはそれが⼼配のタネとなる。
また、過疎地の⾼齢者が⾃⼒で買いに⾏ける範囲では買えるものが限られたり、値段が⾼かったりすることもある。そこで便利なのがオンラインショップだ。都内に住む30代の⼥性は、北海道で農業を営む両親のために、農業⽤の機械を注⽂したり、無農薬の⽶を送ったり、時にはメールでやりとりしながらメルカリで両親⽤の作業着を購⼊したりと、たびたびオンラインで買い物をする。⼤阪の40代男性は、家電が壊れたと聞けば、両親に代わって商品を⾒繕って注⽂をする。⾼齢者⾃らがテレビやカタログで⾒かけた商品を通信販売で注⽂することもある。実店舗に⾏かなくとも、かなりの買い物を済ませることができる。過疎地の⾼齢者にとっても、重宝な⼿段ではないだろうか。

しかし⼀⽅で、実店舗での買い物は「物を購⼊する」ことだけが⽬的ではないことがインタビューからも⾒えてきた。福島に80代の⺟親が暮らす⼥性は、2ヶ⽉に1回、2時間⾞を⾛らせ⺟親を迎えに⾏く。主な⽬的は⺟の通院だが、⺟が楽しみにしているのは娘の運転で⾏く道の駅やショッピングセンターでの買い物だ。⺟親本⼈も、⼩さな酒屋を営み、店に来た地域の⼈と話をすることが張り合いになっているようだという。並んでいる商品を⼿に取り、環境から刺激を受けることが元気のもとでもあり、社会の接点にもなっていると⾔えないだろうか。通信販売はたしかに便利な⼿段だが、それだけに頼るのではなく、⾃ら商品を選ぶ⼿段とうまく使い分けることも必要だと考えられる。

様⼦伺いは誰にでもできる?

私たちが今回注⽬した過疎地の課題のひとつが、⾼齢者の安否確認である。安否確認には、ホームセキュリティ会社だけでなく、電気ポットの使⽤状況を通じた安否確認や、宅配事業者による家庭の電球を利⽤した⾒守りサービスなど、業種を超えたサービス提供が⾏われてきた。こういったサービスを通じて、⾼齢者の異常に素早く気づくことができれば、遠⽅に暮らす家族にとってもひとつの安⼼材料となるだろう。

私たちは、たとえば商品の配達をする際に、⾼齢者と直接顔を合わせることで、データによる「⽣存確認」よりも⼀歩踏み込んだ「様⼦伺い」ができるのではないかと考えた。しかしながら、インタビューを重ねるうちに、第三者が短時間で顔を合わせて確認できる「安否」には限りがあることがみえてきた。

北海道に両親が暮らす⼥性は、年に数回の帰省のたびに「⾃分が実家にいたときよりも、家の中が散らかっている」「以前のように雪かきが⾏き届いていない」といったことが気になるようになってきたという。夏の間は元気にミニトマトの栽培に精を出しいるといい、傍から⾒れば何の問題もない元気なシニアなのだろう。

⼭梨県に70代の両親が暮らすという男性は、⻑年⼠業を営んできた⺟親が、リタイアしてからは「同じ話を繰り返すようになった」ことが、帰省の際にやけに気になったという。

他にも、広島に暮らす80代の⺟のところに久しぶりに顔を出したとき、食がすっかり細くなっていることに気づいたという千葉の⼥性の話もあった。この⼥性は、週に3、4回は様⼦伺いのために⺟親と電話で話しているが、食事の量が減ったことには、会うまで気がつかなかったという。

このように、顔を合わせて「以前と違う」「普段と違う」から、ようやく気づく異変や前兆もある。「以前の元気だったときの様⼦」を知らない第三者にとっては、気づき得ない変化もあるだろう。遠⽅で暮らす家族が気にかけるのは「単なる⽣存確認」に加えて「変わらず元気でやっているかどうか」だ。それを踏まえた上で、安否確認のサービスを検討する必要がありそうだ。


「便りがないのは良い便り。リアクションの『時差』もいつものこと」

遠⽅に暮らす家族は、電話、LINE、メールなど、それぞれの⽅法を使って過疎地の⾼齢者に連絡をとっている。連絡がとれなければすぐに⼼配になるかといえば、そうではなさそうだ。

4歳の娘の様⼦をたびたびLINEで写真とともに⽗親に送るという男性は、既読スルーされても⼀切気にしていない。最近になって、⽗親が携帯の機種を変更して以降は、既読すらつかないことが増えたが、それも「多分設定がうまくいっていないせい」と納得している。

福島の過疎地に80代の⺟親が暮らすという⼥性は、夜遅くに少し⼤きな地震があったとき、すぐに⺟親に電話をしたが出なかった。以前から夜遅くの電話は眠っていて気づかないことがあるため、その⽇も眠っているのだろうと考えて、気になりつつもそのままにしたという。

連絡がなかなかとれなかったり、反応がなかったり遅かったりしても、「いつものこと」と考えて、すぐに⼼配するには⾄らないというケースは他にもありそうだ。単なるスルーなのか、それとも本当に何か起きていて反応できないのか、遠⽅に暮らしていると判断しようがない。相⼿のアクション任せにしない、確実な双⽅向の安否確認の⼿段があれば、お互いがより安⼼して暮らせるのではないか。


どんな安否確認なら受け⼊れられるか?

過疎地に暮らす⾼齢の両親の安否確認の⽅法は、それぞれの技術リテラシーや距離感によって様々である。中には、電話やメールなどのコミュニケーション⼿段を使っての安否確認だけでなく、カメラなどの映像や画像を活⽤する話も聞かれたが、それらにはまた別の導⼊や運⽤の苦労があるようだ。

都内でIT関連の仕事に従事する男性は、両親が主に過ごすリビングのパソコンにWebカメラを設置した。常時、⽣中継で実家の状況が遠隔で⾒られる状態だ。はじめは⾯⽩さも⼿伝って、度々両親の様⼦を観察していたが、次第に「⾒え過ぎ」の居⼼地の悪さに気がつく。ある⽇、両親が訪問客とともに、他⼈の悪⼝を話しているところを⾒てしまったのだ。「家族とはいえどもプライバシーを配慮すべきだし、知らなくていいことも知ってしまう」と、それを機にWebカメラでの監視を取りやめた。かわりに⾃分が使っているスマートウォッチを両親にもプレゼントしようかと思うこともあるが、まだそこまでしなくてもいいかと思いそのままになっている。

福島県に住む50代の⼥性は、息⼦の影響もあり、⾃分の⽣活に様々なテクノロジーを取り⼊れるのに積極的だ。例えば⾃宅⽞関脇に⾃分で取り付けた防犯カメラもそのひとつ。同じものを離れたところに暮らす⺟親のところにも取り付けようと思ったが、「ちょっとカメラがずれたり配線が抜けた程度のトラブルでも、⺟には直せない。電話であれこれ指⽰をするのではなく、⾃分が⾏かないとダメだと思う。それはちょっと煩わしい」と導⼊を諦めた。

週に3、4回は⼀⼈暮らしの⺟親に電話をするという⼥性も「本当ならば⾳声だけでなく、ビデオ通話ができれば顔が⾒られてより安⼼なのに」とは思うが、携帯電話も持たない⺟親にはそれは無理だ。かわりに、弟が⺟親を訪ねたときにはその様⼦を教えてもらうし、⾃分が訪ねたときにも弟に様⼦を伝えるようにしている。訪問の頻度はそれほど⾼くはないが、それでも電話ではわかりづらい様⼦まで知ることもできる。

遠⽅に暮らす家族としては、安否を気にかけつつも、不必要に知りすぎたくない、煩わされたくない、という思いもある。私たちがインタビューをした誰もが、⾃分たちにあった、ほどよい距離感の安否確認の⽅法を⼿探りしている。手間がかからずプライバシーを守りながらも異変があったらすぐに気づけるような、柔軟なソリューションの登場が待たれる。

プロフィール

先行企画部デザインリサーチチーム

2020年から活動を開始。クルマや移動における体験価値をデザインし、ユーザーに選ばれるプロダクトを生み出すことを目的として、デザインリサーチ、人間中心設計、エスノグラフィー、データ分析の専門的な知見を持つメンバーが集まる組織です。

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